シトロエンDSの歴史

1955年10月4日、パリのグラン・パレで行われた第42回パリ・サロンにおいて、DS19は初めて大衆の目に披露されたが、未来からやってきた乗り物のようなスタイルと、その内側に隠された独創的なメカニズムは、会場を訪れた人々を驚かせるのに充分すぎるものだった。

発表の日だけで1万2000件もの注文が舞い込み、“時代より20年は進んだクルマ”とジャーナリストたちが書き立てたことからも、その状況は伺い知ることが出来る。

3125mmという長いホイールベースの上に載るボディは、全長が4800mm、全幅が1800mm、全高が1470mmで、そのスタイルは自動車というよりは宇宙船を思わせるものであった。シャシー構造も独特のもので、頑丈な箱断面構造のサイド・シルとクロス・メンバーを主体とするフロア・パネルの上に、あらかじめ組み立てられた上屋の骨組みが溶接され、前後のフェンダー、フード、4枚のドア、ルーフの合計11枚のボディ・パネルはその表面に張り付けられるだけという、いわゆるスケルトン構造を採っていた。

しかし、それ以上に画期的だったのが、1個の油圧ポンプから送り出されるオイルの圧力によって作動するサスペンション、ギヤボックス、ステアリング、ブレーキであろう。DS19には、スプリングもショック・アブソーバーも存在しなかった。代わりに設けられたのは、下部にサスペンションに連結したピストンを待つ中空の球(スフェアと呼ばれる)で、内部は柔らかいゴム製の膜で2分され、上に窒素ガス、下に植物性オイルが収まる。このうちスプリングの役目を果たすのはガスだが、それによって圧縮された分だけオイルを送り込み、車体姿勢を一定に保つのである。このシステムはハイドロニューマティック・サスペンション(hydro=水、pneumatique=空気)と名付けられた。さらに4段ギアボックスはギアチェンジとクラッチ操作をこの油圧で賄った半自動式で、ブレーキ、ステアリング操作もこの油圧によってアシストされ、群を抜く快適な乗り心地と軽い操作系をものにしていたのである。

フロントはウィッシュボーンを半分にしたようなアームを上下に配置し、ハブを支持するタイプで、リアはトレーリング・アームの、四輪独立懸架である。なおブレーキは前輪にディスクが使われたが、これは市販車では世界初だった。唯一の一般的なメカニズムと言えた4気筒1911ccのパワーユニットは、最高出力75HP/4500r.p.mとそれほど目立つ数値ではなかったが、極めて空気抵抗の少ないボディは140km/hのトップ・スピードを獲得することを可能としている。

1960年には、電装系が12Vに変更され、'61年にはDSのパワーが83HPにアップされるとともに、インストルメント・パネルのデザインを変更し、'62年はフロント・バンパー周りがモディファイされてDSの最高速度は160km/hに達した。続く4年間は、DSにとって重大な変更が実施された時期である。まず1964年夏、ハイドローリック・システムに使用するオイルが従来のLHSから改良版のLHS2に変更。続く'65年には、同じOHVの直列4気筒ながら5ベアリングを持つ新設計のパワー・ユニットが投入された。

新しいエンジンは2175cc(φ90×85.5mm)の排気量を持ち、最高出力は109HP/5500r.p.m(SAE)を発揮、このエンジンを搭載したDS21のトップ・スピードは175km/hを記録した。次の年は、油圧系に使われるオイルが植物性のLHS2から、より優れた粘性と長い寿命を誇る鉱物性のLHMへと、再び変更される。そして'67年9月にはフロント周りに大手術が施され、露出していた2灯式のヘッドランプがガラスで覆われた4灯式に替えられた。このうち内側の2灯は、舵角に応じて左右に首を振るという新機軸が盛り込まれていた。その後'69年からDS21には、フランスの市販車として初めて燃料噴射装置(ボッシュ製)を備えたモデルが加わった。このエンジンは139HPを発揮し、188km/hのトップ・スピードを実現している。ちなみにこの年にはダッシュ・ボードのデザインが再び変更された。

1970年代は、まずDSに5段マニュアルのトランスミッションが選べることから始まり、さらに翌年にはわずかだがトルクコンバーター式の3段A/Tが加わる。そして1972年9月、DS21に代わってDS23が登場する。ボアをφ93.5に拡大したこのエンジンの排気量は2347ccで、最高出力はキャブレター仕様が124HP/5250r.p.m、インジェクション仕様が141HP/5250r.p.mとなり、トップ・スピードは188km/hに達した。

そして、1974年のパリ・サロンで、シトロエンはDSの後継者であるCXを発表、翌年4月24日、正式に生産終了が発表された。実に20年にわたる長い生涯だったが、最後まで旧さを微塵も感じさせなかったのは、やはり先進的な設計思想があってのことだろう。



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